生物が記録する科学

バイオロギングの可能性


文章の構成

 この文章を,導入-展開-終末ととらえると,次のようにまとめることができます。

  1. 導入 バイオロギングの説明
  2. 展開 バイオロギングの実際
  3. 終末 バイオロギングの有用性

 導入の要旨は「普段暮らしている水中の様子を観察するのは難しい」ペンギンの生活を明らかにする「ユニークな方法」がバイオロギングだよ,ということです。

 展開では,バイオロギングの実践例が書かれています。

 終末部は「生息環境における動物たちのありのままの行動を調べることを可能にした。」とバイオロギングが有効であることを宣言しています。このあとの部分は「この方法を開拓してきた」苦労話と,今最前線で使われていること,バイオロギングを使えばこういうふうになるかもしれないよ,と将来への期待を書いています。タイトルの「可能性」と呼応する部分です。

展開部の構成

 展開部は,大きく次の二つに分かれています。

  1. エンペラーペンギンの話
  2. 「さて,もう一つ」で始まるアデリーペンギンの話

 1は更に「まず,南極のマクマード基地近く」の実験と,「では」で始まる「南極のワシントン岬」の実験に別れています。

 「マクマード基地近く」の実験は,「なぜ,ペンギンは(その実力はあるのに)深く潜らないのだろう」に対して「浅く潜ってその目的が果たせるならば~潜る必要はない」ことがバイオロギングでわかった,というのが要旨です。しかしこれは「海の上に張った氷に~穴を開け」た人工環境による実験でした。

 そこで「人の手が加わらない自然のままの状況」を調べるために「ワシントン岬」の集団繁殖地の実験が行われます。この中で「なぜ,浅く,短い潜水ばかり行われるのだろう」と問題提起がなされます。問題定期文の内容が「なぜ深く潜らないのか」から「なぜ浅く短時間潜るのか」に変わっています。その答えは「短い潜水を数多く繰り返した方が効率はよい」からです。これが書かれている次の文にある「浅い所にいる餌はすぐに捕り尽くされてしまう」は結論ではありません。なぜなら文頭の「長時間潜る」理由の説明であり,文末の「だろう」でこれが推測であるからです。テストではフェイクとしてよく使われるものですので,ひっかからないように注意しましょう。

 2は,アデリーペンギンが一斉に海に潜り,一斉に海から出てくる現象から「ペンギンたちは,水中でもいっしょに餌を捕っているのだろうか」という問題提起と調査内容と結論が書かれています。

 結論に至るまでに「(アデリーペンギンは)潜水の開始と終了だけをわざわざ一致させている」という事実を示し「なぜ」と問題提起をします。この理由は「捕食者に食べられない」ためです。しかしこの結論は「捕食者から身を守るための行動であるようだ」と推論に過ぎません。これは単なる観察の結果であり,バイオロギングからわかったことではないからです。

この文章のツッコミ所

 構成で述べたように,展開2のアデリーペンギンの実験は,実はバイオロギングとは関係なく,しかも推測です。しかし筆者は「餌を効率よく捕ることも重要だが,捕食者に食べられないこともまた重要なのだ」と断言し,「さまざまな工夫をこらしている」と言い切ってしまいます。「さまざまな工夫」とは「餌を効率よく捕る」ことと「捕食者に食べられないこと」を指しています。「餌を~」はエンペラーペンギンのバイオロギングを使った観察で断言してもいいでしょう。しかし「捕食者に~」はバイオロギングを使っておらず,しかも数日の観察の結果の推測です。説明的文章としては,どうなんでしょうね。

 さらに,バイオロギングを「大胆な発想」と呼び,開発の苦労を語り…お前は“プロジェクトX”かっ,というつっこみが入ります。

 とどめは「動物たちの行動圏は,人間の行動圏よりもはるかに広い。」です。おいおい,地球上に生息する全ての生物で,最も行動圏が広いのは人間だろっ。人間は海底から地中,宇宙空間にまで生存できる,地球最強(最凶?)の生物ですよ。

 最後の「私たちは,自分が見たり,経験したりできる範囲だけで考えて,彼らをわかったつもりになっていないだろうか」「動物たちからもたらされるデータは,私たちが思考できる範囲を大きく広げてくれるはずだ」というのは動物行動学では確かかもしれません。確かにネコにカメラをつけて一日の行動を調べたらおもしろいかもしれませんね。みなさん,どう思いますか?

 結局,結論は何なのでしょう。最後の段落の最初の一文だけが結論で,あとは筆者の感想のようにも感じられます。一方,参考書によっては最後の一文を結論としているものもあります。これはテキストのタイトル「可能性」について書かれているからです。どう解釈するか,授業をしっかりうけましょう。


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