見えないだけ

題名 見えないだけ

作者 牟礼 慶子

1 空の上には

2 もっと青い空が浮かんでいる

3 波の底には

4 もっと大きな海が眠っている

5 胸の奥で

6 ことばがはぐくんでいる優しい世界

7 次の垣根で

8 蕾をさし出している美しい季節

9 少し遠くで

10 待ちかねている新しい友だち

11

12 あんなに確かに在るものが

13 まだここからは見えないだけ

 

二連構成の、口語自由詩です。

この詩の問題を解くポイントは、表現技法にあります。

表現技法に注意して、この詩を読解してみましょう。

第一連

 

最初の4行、「空の上には/もっと青い空が浮かんでいる」と「波の底には/もっと大きな海が眠っている」は対句です。

「~には~いる」と押韻もあります。

ですからこの四行はひとまとまりです。
「空の上」の更に上と、「海の底」の更に下ですから、作者は空間的な広がりを表現しようとしています。
しかしこれだけではありません。

空の上には/もっと青い空が浮かんでいる

「雲外蒼天」という言葉があります。
試練を乗り越えていき、努力して乗り越えれば快い青空が望めるという意味です。
これをスローガンにしている部活もあるかも知れませんね。
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私たちが見上げる空は天気の良い日ばかりではありません。曇りの日もあれば雨の日もあります。
しかしどんな天気の日でも、必ず雲の上には「青い空が浮かんでいる」のです。
ですから「(どんな天気であってもその)空の上には/もっと青い空が浮かんでいる」と、省略法が用いられているとも考えられます。
そして、この二行は題名とつなげて考えることにより「どんな天気の日であっても、その向こうには明るい未来が確かにあり、それは今は見えないだけである」という、この詩の主題を比喩によって表現してると考えられます。
 
「波の底には/もっと大きな海が眠っている」も同じです。
目に見える表面的な「波」がどんなに荒れていても、その下には静かで深い「海」が「眠っている」のです。
海は眠るわけがありませんから、これは擬人法です。
自分の中にある海のような大きく深い気持ちが、まだ目覚めていない状態を、これもまた比喩によって説明していると考えられます。
 
「胸の奥で/ことばがはぐくんでいる優しい世界」「次の垣根で/蕾をさし出している美しい季節」「少し遠くで/待ちかねている新しい友だち」
この三つは対句です。
「~で/~(体言止め)」という形によって読者にインパクトを与えようとしています。

胸の奥で/ことばがはぐくんでいる優しい世界

「言葉がはぐくんでいる優しい世界」のある場所は「胸の奥」です。
「胸の奥」は比喩で、個人の内面をあらわします。
難しい言葉で言うと「内言」の世界です。精神世界と言ってもよいでしょう。
私たちは「ことば」によってものを考えたりはっきり感じたりします。いろいろな考えや漢字を「ことば」でつかまえることによって、はじめてそれが何かを知ることができるのです。
そしてすべての「ことば」の後ろには、優しい心が育っているはずだ、ということです。
例えば友だちと喧嘩をしたとします。
どんなにののしりあったとしても、胸の奥には「ごめんね」という気持ちがあり、今はその「ごめんね」という言葉が「見えないだけ」である、と作者は言いたいのではないでしょうか。
この二行は「あなたの心には、言葉によって形作られる優しい気持ちが常にある」という意味だと思います。

「次の垣根で/蕾を差し出している美しい季節」

「次の垣根」は、今歩いている道の向こうにあります。
ですから未来の比喩です。
この未来は、時間的・空間的なものです。物理学的な世界ですね。
「蕾」に象徴される美しいけれど未完成なものが、読者に差し出されているのだ、と隠喩を用いて表現されています。
では「差し出している」のは誰でしょう。
「季節」です。ですからこれは擬人法です。
この二行は「あなたの未来には『蕾』に象徴されるような美しいものである。」というくらいの意味でしょう。

少し遠くで/待ちかねている新しい友だち

これは人間関係、つまり社会的な世界を示しています。
「友だち」ですから、あなたに好意的な人物です。
「新しい友だち」ですから、現在のあなたには未知の人物です。あるいは既知の人物かも知れませんが、今後好意的になるはずの人です。
この二行は「自分から少し離れたところには、あなたと友だちになろうとしている人物がきっといる。」という意味です。
 
これら「世界」「季節」「友だち」それぞれが「優しい」「美しい」「新しい」と、ポジティブな言葉で表現されています。
精神的にも物理的にも社会的にも明るい将来が待っているのだ、と言いたいのでしょう。
「はぐくんでいる」「さし出している」「待ちかねている」と、既に未来に準備され、あなたが気づいてくれるのを待っている、スタンバっている状態であるのです。
ここで注目したいのは「胸の奥」「次の垣根(これも比喩です)」「少し遠く」と、少しずつ距離的に遠くになっている点です。
これは、「まず自分の優しさに気づきなさい、そうすれば運命が変わるよ。そうすればあなたに好意的な人物が必ず現れる」という作者の思想(お説教?)であるとも考えられます。
ですから「はぐくんでいる(既に育てている)」「さし出している(向こうの方から行動を起こしている)」「待ちかねている(待機している)」と微妙に変化しているのではないでしょうか。

第二連

第二連では、第一連で述べたポジティブな世界の広がりを「あんなに確かに在るもの」とし、現在はそれが「見えないだけ」であるといっています。
未来には、素晴らしいものが確かに存在し、それは君のために準備され待っていてくれている。今のあなたはそれがわからないだけなのだ。(だから、未来を信じてまず自分から変わっていこう。)という作者からのメッセージが感じられます。
年度のスタートにあたり、未来に対して前向きに生きていこう、という光村図書なりのメッセージなのでしょう。
ちなみに、この教材は教科書の最初の単元「広がる学びへ」の一つです。
他に「 アイスプラネット」と「枕草子」が主な教材として扱われています。ですから、この詩の主題は「アイスプラネット」や「枕草子」と強く関係しています。
どのような関係があるのか考えてみましょう。

 

 

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コメント: 1
  • #1

    Holy Cow (月曜日, 22 4月 2024)

    とてもわかりやすく的確な解説に、作者本人が書いてるんじゃないかってぐらい感心しました!どうもありがとうございました:)