走れメロス


Q&A

Q 「もっと恐ろしく大きなもの」とは何か

 メロスは、自分が走る理由について、最後に次のように語っています。

  • それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わないは問題ではないのだ。人の命も問題ではないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいもののために走っているのだ。
 この、「もっと恐ろしく大きいもの」とは何でしょう。

 「走れメロス」の元ネタであるシラーの「人質」では次のようになっています。

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シラー
  • たとえ、間に合わなくても、友を救えなくても、死んでひとつになれる!王にだけは自慢させない、「やっぱり友を裏切った」と。愛と誠の二人を殺せばいいんだ!

 どちらも、セリヌンティウスの処刑に間に合わなくてもかまわない、と言っていることに違いはありません。

 「人質」のメロスは、自分も自殺して、王に「愛と誠」を示すのだ、と言っています。言い換えれば王のために走るメロスです。

 

 一方「走れメロス」では「信じられているから走るのだ」と説明しています。直前の「それだから」は、フィロストラトスの語った「メロスは来ますとだけ答え、強い信念を持ち続けている様子」を指しています。友の信頼を裏切らないために走るメロスと変えられているのです。

 この「友からの信頼」が「もっと恐ろしく大きいもの」の正体でしょう。

 言い換えれば、約束を守ったという約束を守ろうとした気持ちこそが大切である、という主張です。
imaginative
 シラーの「人質」でフィロストラトスはメロスの執事であったものが、「走れメロス」ではセリヌンティウスの弟子に変更されています。

 メロスの執事だったら「結果はわかっているから走るのをやめろ」と主人であるメロスに進言するのは当たり前です。しかしセリヌンティウスの弟子に「走るのをやめろ」と言わせることで、「友を裏切らない」という立場をはっきりさせたかったのではないでしょうか。

 

「身代わりの友を助ける」(これも、自分が友を人質に差し出したのですから、奇妙な理屈です……。)という理由で走り始めたメロスですが、最後には「友を裏切らない(友の信頼に応える)」ために走るというように変わってきた、と考えることもできます。

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