Q&A


Q あらすじ

 中学の入学式で初めて会った「シュンタ」と「シンタ」は、見た目も好きな物も嫌いな物もぴったり同じで、「まるで磁石が引き合うみたいに。」すぐに仲良くなった。あたかも双子のような二人はクラスメイトから「シンシュン」と呼ばれるようになり、いつもいっしょで話がとぎれずどんどんでてきた。笑うところも、怒るところも同じだった。

 ところがある日、ちょっとした話題で意見(好き嫌い)が食い違い、シュンタはショックを受ける。しかし違うところがあることを認めたら、いっしょにいられなくなると思ったシュンタはとっさに相手にあわせてしまう。

 それからシュンタは、シンタと話すときに迷うようになり、当たり前のことしか話せなくなり、しまいには黙ってしまい、だんだん離れていってしまう。

 あるときシュンタは思い立ち、けんかになることを覚悟してシンタに話しかけると、シンタもそのことを気にしていたことがわかり、互いに好きなことも嫌いなこともどんどん話すことにしようと意見が一致した。「そっくりだけど、全然違う人間なのだった。」ということがわかり、「僕たちはそれから、前にもましておしゃべりになった。」


Q 「シンシュン」のよいところ

文学的価値

 「シンシュン」は、教科書に載せるために書かれた小説です。ですからあらかじめ、読者は中学校一年生であることを念頭に書かれています。

 作者の西加奈子は、直木賞作家です。

 指導書等には、内容や言葉遣いが美しく、この物語を通じて、文学の美しさや言葉の力に触れることができると書かれていますが、「大きなお友だちへ」に書いたように、私は設定がおかしい点があると思います。

 国語の授業としては、さまざまな表現技法を手がかりに主人公の心情の変化をつかむための入門教材だと思います。

道徳的な価値

 「シンシュン」には、道徳的な教訓が強く含まれています。

 物語の中で主人公が経験する出来事や選択肢を通じて、

  • 自分と同じでないと相手と離れてしまうのか
  • 相手と同じであるように忖度した行動をとらなくてはいけないのか
  • コミュニケーションをとることの重要性

等の倫理的な問題について、自己の価値観を深める機会となります。

 しかし、これは国語で扱う問題ではありません。 

文化的な価値

 「シンシュン」は日本の伝統文化や歴史に関連する作品です。

 もともと日本人には、島国由来の「みんな同じ」という発想があり、同じであることの上に文化が成り立っていました。しかしこの物語では、「みんな同じではない」ことがストーリーを進める重要な要素になっており、異なる文化や価値観を尊重する重要性について学ぶことができます。

教育的な価値

 小学校から中学校へ進学したばかりの生徒にとって、友達関係はとても重要なことです。はじめて知り合った友だちとの関係において、「自分と同じ」だからではなく、「自分と違う」ことを乗り越え、よりよい友達関係を構築していくことの大切さを訴えています。

 「シンシュン」の「良いところを探しましょう」「友だちに紹介する文を書きましょう」という課題が出た場合、以上のことを適当にまとめればよいでしょう。


Q 「シンシュン」はBLか?

 BLとは、男性同士の深い絆や恋愛を描く作品ジャンルです。

 結論から言うと、「シンシュン」はBLではありません。なぜならシュンタとシンタは、深い絆で結ばれていません。ましてや恋愛関係にはありません。

 だいたい、しょっちゅうつるんで行動しているだけですから、周囲の目からは「友だち」認定されていますが、本人同士はお互いに気を遣っているので、本当の友情関係があるかどうかもはっきりしません。(でも、腐女子のみなさんには、妄想をふくらませてBLに見えるのでしょうね。

 それよりももっと問題なのは、主人公の異常なほどの自己愛です。自分以外が見えないナルシストの主人公が、自分以外の人格に触れていき、自分以外の人格を理解するためにコミュニケーションの大切さに気づいていく物語と考えるのがよいでしょう。