クマゼミ増加の原因を探る


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消去法による論証

 クマゼミ増加の原因を探る」は消去法によって問題を解決しているように見えます。

 消去法とは、いくつかの選択肢があるときに、誤りや、あり得ないものを消去していき、最終的に残った選択肢を選ぶ方法です。

 テストなどの選択肢問題で使く、知っている人も多いかもしれません。

 筆者はこの文章で三つの仮説をたて、[仮説1][仮説2]の誤りを指摘し、[仮説3]の正しさを論証することによって、結論を得ています。

 具体的に見てみましょう。

三つの仮説と結論

[仮説1]

クマゼミの卵は寒さに弱く、昔の大阪では冬を越せるものが少なかった。しかし、気温上昇で寒さが和らぎ、越冬できる卵が増えた。

[仮説1]の結論と理由

クマゼミの卵は寒さに強く、かつての大阪でも十分越冬することができた。

 

従って、冬の寒さの緩和はクマゼミ増加の原因ではない。

[仮説2]

気温上昇で孵化が早まり、梅雨に重なったことで、孵化できる卵は増えた。

[仮説2]の結論と理由

気温上昇で孵化が早まり、梅雨の時期と重なったことは、クマゼミ増加の原因の一つと考えられる。

 

しかし、梅雨の期間に孵化が終わる点では、他のセミの方が有利であり、クマゼミが増えた原因ではあっても、クマゼミだけが増えた原因とは言えない。

[仮説3]

クマゼミの幼虫は土を掘る力が強く、ヒートアイランド現象による乾燥と地表の整備によって硬化した地面にも潜ることができる。

[仮説3]の結論と理由

乾燥と地表整備で、他のセミが潜れなくなるほど硬くなった地面にも、クマゼミだけは潜ることができる。

 

これが、大阪市内でクマゼミの占める割合が高まった原因と考えられる。

調査の実施年から

 筆者は[仮説1][仮説2][仮説3]を順番に解決し、消去法によって結論を得たのではありません。

 それぞれの仮説で用いられている調査を並べてみましょう。

  • 図1 抜け殻調査の結果 2008年(研究のきっかけ)
  • 図3 氷点下21度に一日置いた場合の生存率 2004年以前([仮説1])
  • 図4 氷点下5度に30日間置いた場合の孵化率 2004年以前([仮説1])
  • 図5 気温の違う野外に1年間置いた場合の孵化率 2005~2006年([仮説1])
  • 図6 セミの孵化の時期と雨の日の割合 2008年([仮説2])
  • 図7 土に潜ることのできた幼虫の割合 調査年不明([仮説3])
  • その他 土の硬さの測定 2008年(仮説3) 

 この調査は2003年から6年間行ったと筆者は言っています。

 [仮説1]は2006年までに行った調査をもとに結論を得ています。しかし[仮説2]と[仮説3]の土の硬さの測定の調査は、いずれも2008年に行ったものです。

 そして、[仮説3]の図7「土に潜ることのできた幼虫の割合」は、調査年度を明らかにしていません。

 ひょっとして筆者は、クマゼミは硬い土に潜る能力が圧倒的に高いということを、この調査を始める前から、あらかじめ知っていたのではないでしょうか。

 そのため、図1「抜け殻調査」の時に、同時に「土の硬さの測定」も行ったのだと考えることができます。 

 筆者は「抜け殻調査」を行った時点で、「クマゼミは硬い土のところでも抜け殻が多い=幼虫として土に潜ることができたからだ。それ以外のセミは土に潜ることができなかったので抜け殻も少ない」ということに気づいていたはずです。

 そして「クマゼミ増加の原因は、地球温暖化が原因ではないとするならば、ヒートアイランド現象のせいで土が硬くなったせいある」という結論をまず得て、それを立証するために[仮説2]と[仮説3]を考えたのではないでしょうか。

消去法というレトリック

 ではなぜ、仮説を[1][2][3]と順番に並べたのでしょう。研究の最後の方で行った「抜け殻調査」を「研究のきっかけ」で使い、同時に行ったそれぞれの土地の「土の硬さの測定」結果を[仮説3]で出してきたのでしょう。 

 [仮説1]は卵の、[仮説2]は孵化の時期の、[仮説3]は孵化後に土に潜る段階の仮説です。

 これは①産卵(卵)→②孵化→③幼虫→④羽化(成虫)の順番と同じです。

 しかし理由はこれだけだったのでしょうか。

 論では[仮説1]がまず排除され(×)、[仮説2]はこれだけが「原因とはいえない」とし(△)、[仮説3]こそが「原因と考えられる」(○)としています。

 このように最初×を、次に△を、最後に○を示すことが、読者を納得させようとする筆者のもくろみなのではないでしょうか。

 もし、

  • クマゼミ増加の原因を「硬くなった土に潜ることができるからだ」と最初に言い、
  • 次に「孵化が梅雨の時期と重なったという面もあるかも知れない」、「暖冬は関係ない」

と論を展開したら、読者はどう感じるだろう。

 「え?本当?ウソっぽい」「まだ他に可能性はないの?」と疑問を持つ読者が出てくるのではないでしょうか。

 

 しかし×→△→○の順番にすることで納得してしまう読者は多いに違いないと思います。

 

 筆者は、この研究のために二〇〇三年から六年間調査の中で試行錯誤を繰り返し、実験や観察を積み重ねて結論を得たのでしょう。

 そして読者により納得してもらえるように、消去法というレトリックを用いたに違いありません。


筆者の真意

 クマゼミ増加の原因となるヒートアイランド現象とは、テキストに書いてある通り、アスファルトやコンクリートの舗装、エアコンや自動車の排熱によって都市部だけ周囲より気温が高くなる現象です。

 一方「地球温暖化」という言葉をよく耳にします。

 これは、大気中に二酸化炭素などの温室効果ガスが増えることにより、地球規模で気温が上昇する現象と言われています。

 ところが「クマゼミ増加の原因を探る」の本文には一度も「地球温暖化」という語は用いられていません。本文の中では触れられていない、最後の図表に一箇所出てくるだけです。

 筆者はまとめに「環境の変化と、生物の数や分布の変化は、簡単に関連付けて語られることが多い」と言っています。

 今「地球温暖化」について、いろいろなことが盛んに言われています。

 しかし、私たちは、クマゼミ増加についてだけでなく、さまざまな現象を安易に地球温暖化と結びつけて語ることはないでしょうか。

 そして筆者は、そんな風潮に警鐘を鳴らしているような気がしてなりません。


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